生成AIが暴いた「VBAオワコン説」の盲点|問われるのは言語ではなく評価軸
少し前まで、「VBAはもうオワコンであり、これからはPythonやTypeScriptの時代だ」と声高に叫ぶ人々がいました。
しかし現実には、PythonはExcel内の関数(機能)の一部として組み込まれるに留まり、オンライン版の自動化にのみTypeScriptが採用されました。
そもそも、彼らがVBAを非難していた主な理由は「セキュリティリスク」と「古い言語仕様」の二点です。
しかし、前者は製品設計と運用の工夫によって克服され、後者は生成AIがコードを書く時代になったことで、実務上の差異がほとんど意味をなさなくなりました。
つまり、「VBAは終わる」と断言していた人々は、結果として技術の先行きを見通す物差しを持っていなかったことを、自ら証明してしまったことになります。
少なくとも、現在のExcel製品群を見る限り、この予測は現実とは異なる方向へ進んだと言えるでしょう。
はじめに
「これからはPythonやTypeScriptの時代。」
「VBAはもうオワコン。」
その根拠として挙げられていたのは、主に「言語仕様の古さ」と「マクロのセキュリティリスク」の二点です。
しかし、生成AIの登場、そして現在のExcel製品群を見ると、Microsoftは各技術を異なる用途で共存させる方向を選んだことが分かります。
この事実は、こうした議論の前提が十分ではなかったことを示しています。
むしろ、「VBAは終わる」と断言していた人たちが、技術の本質ではなく、当時の評価軸しか見ていなかったということです。
1. 「人間がコードを書く」が前提だった時代
- クラスモジュールが扱いづらい
- モダンな構文ではない
- オブジェクト指向が弱い
しかし、その議論には一つの大きな前提が隠れていました。
だからこそ、「どの言語が人間にとって書きやすいか」「どの言語が美しく、効率的にタイピングできるか」という静的な指標が絶対視されていました。
2. 生成AIが評価軸そのものを変えつつある
現在でも、人間がコードを読み、レビューし、保守する場面は少なくありません。
しかし、AIはすでに、多くの場面で高い精度でコード生成、リファクタリング、テストコード作成、バグ修正の支援までを担うようになっています。
すると重要になるのは、「人間が書きやすい言語」ではなく、「AIが安定してコード生成しやすい言語やエコシステム」という新しい評価軸です。
その上で、言語ごとの特徴やエコシステムが、新たな評価対象になりつつあります。
その背景には、長年にわたり蓄積されたサンプルコードや技術情報が豊富であり、さらにExcelのオブジェクトモデル(API)も長期間にわたって大きく変化していないため、学習済みモデルが参照できる知識量が多いことが挙げられます。
Workbook、Worksheet、Rangeといった、長期間にわたり仕様が大きく変わらないExcelのオブジェクトモデル(API)の存在も、AIにとっての「迷わなさ」となり、安定したコード生成を支える重要な要素となっています。
もちろん、これはVBAの言語仕様が新しくなったという意味ではありません。
今後、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」がさらに発達すれば、この評価軸の変化はさらに加速する可能性が高いと言えます。
AIにとって構造が安定している言語やエコシステムは、コード生成や保守の効率を高める可能性があります。
その結果、現場での運用コストが下がり、長期的には言語の競争力を支える要因の一つになり得ます。
これは、これからの時代における一つの将来像として十分に考えられるシナリオです。
3. Microsoftが示した「適材適所」の答え
| 技術 | 現在の役割 | 動作環境 |
| VBA | デスクトップ版Excelの自動化、COM連携、既存資産の活用 | デスクトップ |
| Python | Excel内での高度なデータ分析・統計処理 | クラウド連携 |
| Office Scripts(TypeScript) | Web版ExcelやPower Automateを中心としたクラウド自動化 | Web・クラウド |
注目すべきは、PythonはVBAを置き換える存在にはならず、Office Scriptsもデスクトップ版VBAを駆逐したわけではないという点です。
なぜなら、これらは動作環境が異なるからです。
一方で、VBAはそのローカル環境における強力な連携力こそが最大の強みです。
それぞれの言語を異なる評価軸のもとで最適化し、共存させるという設計思想です。
これは、「勝者が一つになる」という従来の言語論争とは異なる現実を示しています。
4. 補論:セキュリティも「言語の問題」ではなかった
確かに、VBAマクロは強力な権限を持つため、不正なコードが実行されれば危険です。
しかし、その対策は「VBAという言語を廃止すること」ではありませんでした。
- インターネットから取得したファイルのマクロを既定でブロックする製品設計の変更
- 信頼済み発行元や組織ポリシーによる管理
- 保護ビューの徹底
これを言語の寿命と結びつけて語っていた点に、当時の批判論の論理的飛躍がありました。
5. 本当に見誤ったもの
彼らは、「現在の開発環境と、現在の評価基準」という固定されたフレームワークの中で、言語のスペックを比較することには長けていました。
しかし、「生成AIのような技術革新によって、人間とプログラミングとの関わり方が変わり、評価軸の重み付けが書き換わる」という可能性までは、想像の範囲外だったと言えます。
しかし、その前提そのものが技術革新によって変化することは少なくありません。
評価軸は固定されたものではなく、技術や社会の変化に応じて常に更新され続けるものです。
しかし、それらの重要度そのものが変化する可能性までは十分に考慮していませんでした。
つまり、個々の技術を評価することには長けていても、「何を重視すべきか」という評価基準そのものが変わることを見落としていたのです。
結論
「優れたプログラミング言語とは何か」「価値あるエコシステムとは何か」という評価軸そのものを変え始めています。
技術そのものでもありません。
生成AIが前提条件を揺るがし、評価軸そのものを書き換えていく現象は、今後、他の技術分野でも形を変えて繰り返されることになるでしょう。
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