VBA技術解説
VBAのセキュリティリスクについて

ExcelマクロVBAの問題点と解決策、VBAの技術的解説
公開日:2025-04-24 最終更新日:2025-04-24

VBAのセキュリティリスクについて

VBAのセキュリティリスクについてのレポートです。
このレポート作成においてはGeminiを使用しています。



はじめに

Visual Basic for Applications(VBA)は、Microsoft Officeスイートに深く統合された強力なスクリプト言語であり、ユーザーがアプリケーションの機能を自動化・拡張することを可能にします。
1990年代半ばからOfficeに搭載され、その開発の容易さから、特に企業環境における定型業務の自動化やカスタムソリューションの構築に広く利用されてきました。
しかし、その高い利便性とは裏腹に、VBAは長年にわたりセキュリティ上の重大な懸念が指摘されており、サイバー攻撃、特にマルウェアやランサムウェアの主要な侵入経路の一つとして悪用される事例が後を絶ちません。

本レポートは、VBAに関連するセキュリティリスクを包括的に分析することを目的としています。
具体的には、VBAプロジェクトに潜む一般的な脆弱性、VBAが悪意のある目的でどのように悪用されるかの具体的な事例、安全なVBAコーディングのためのベストプラクティス、VBAに組み込まれたセキュリティ機能とその効果の限界、過去に発生したVBA関連の著名なセキュリティ侵害事例とその影響、他のスクリプト言語と比較したVBAのセキュリティ特性、VBAコードの脆弱性を分析するためのツールや技術、そして主要なMicrosoft OfficeアプリケーションにおけるVBAの使用状況に伴う固有のリスクについて考察します。

本レポートの目的は、VBAのセキュリティリスクに関する深い理解を提供し、組織のIT部門、セキュリティ担当者、およびVBA開発者がこれらのリスクを効果的に認識し、適切な軽減策を講じるための実践的な知識と対策を提供することにあります。


VBAセキュリティリスクの現状と攻撃者の動機

VBAがサイバー攻撃者にとって魅力的な標的となる最大の理由は、Microsoft Officeが世界中の企業および個人ユーザーの間で圧倒的に普及している点にあります。
この広範な利用基盤は、攻撃者にとって非常に広い攻撃対象領域を提供し、効率的に多数のシステムへマルウェアを拡散したり、情報を窃取したりする機会を生み出します。

攻撃者は、VBAを悪用するために、高度な技術的な脆弱性だけでなく、ユーザーの心理的な隙を突くソーシャルエンジニアリングの手法を多用します。
最も一般的な手口は、巧妙に偽装されたフィッシングメールに悪意のあるOfficeドキュメントを添付し、ユーザーに開封させてマクロの有効化を促すものです。
「コンテンツの有効化」や「編集を有効にする」といったセキュリティ警告が表示された際に、ユーザーがその危険性を十分に理解せずにボタンをクリックしてしまうことで、埋め込まれた悪意のあるVBAコードが実行されてしまいます。
攻撃者は、偽の請求書、重要な通知、興味を引く情報などを装い、ユーザーに警告を無視させるよう誘導します。

さらに、悪意のあるVBAマクロを容易に作成・展開するためのツールキットやフレームワークがダークウェブなどで広く流通していることも、VBAのセキュリティリスクを高める要因となっています。
これらのツールキットは、専門的なプログラミング知識を持たない攻撃者でも、カスタマイズ可能なマルウェアを含むVBAコードを生成・拡散することを可能にし、VBAを悪用したサイバー犯罪の敷居を大きく下げています。


VBAプロジェクトにおける一般的なセキュリティ脆弱性

VBAプロジェクトのコード自体や、その実行環境には、攻撃者によって悪用される可能性のある多くの一般的なセキュリティ脆弱性が存在します。

危険な関数の誤用または不適切な使用

Shell 関数や特定のActiveXコントロールなど、OSレベルの操作や外部アプリケーションの実行を可能にする強力な機能は、悪意のあるコードがシステムコマンドを実行したり、外部から追加のマルウェアをダウンロード・実行したりするために悪用される可能性があります。
これらの関数を使用する際には、実行されるコマンドや引数を厳格に検証する必要があります。
SaveSetting, GetSetting, DeleteSetting など、レジストリを操作する関数も、不正な設定変更や情報窃取に利用されるリスクがあります。

不適切なエラー処理

エラー発生時にアプリケーションの詳細な情報(パス、ファイル名、バージョン情報、データベース接続文字列の一部など)を含むエラーメッセージをユーザーや外部に表示してしまうと、攻撃者にとってシステムの内部構造や潜在的な脆弱性を特定するための貴重な偵察情報を提供することになります。
エラー情報は、ログファイルに記録するなど、安全な方法で処理されるべきです。

認証・認可チェックの欠如または不備

特にデータベースや機密ファイルにアクセスするVBAプロジェクトにおいて、ユーザーまたは実行コードが正当な権限を持っているかを適切に確認しない場合、不正なアクセス、データの改ざん、情報窃取のリスクが大幅に増加します。
アクセス権限は必要最小限に絞り(最小権限の原則)、認証メカニズムによってアクセス元の正当性を確認し、認可制御によってそのアクセス元がどのリソースにどのような操作を許可されているかを厳格に管理する必要があります。

ユーザー入力の不適切な処理(サニタイズ・検証の欠如)

ユーザーから提供された入力データ(テキストボックスの内容、セルの値など)を適切に検証・無害化(サニタイズ)せずに、SQLクエリ、コマンドライン引数、または他のコードの一部として直接使用すると、SQLインジェクションやOSコマンドインジェクションなどのインジェクション攻撃を招く可能性があります。
すべての外部入力は、その使用目的に応じて厳格な型チェック、範囲チェック、特殊文字のエスケープ処理などを行う必要があります。

外部依存関係の脆弱性

VBAプロジェクトが参照している外部ライブラリ、ActiveXコントロール、またはその他のアドインコンポーネントに既知のセキュリティ脆弱性が存在する場合、VBAコード自体は安全であっても、これらの依存関係を通じて攻撃を受ける可能性があります。
使用する外部コンポーネントは、信頼できるソースから入手し、常に最新の状態に保つことが重要です。

メモリ破損の脆弱性

VBAエンジン自体、あるいは基盤となるMicrosoft Officeアプリケーションに存在するメモリ破損の脆弱性(例:バッファオーバーフロー)が、特別に細工されたOfficeドキュメントを介して悪用される可能性があります。
これらの脆弱性が悪用されると、攻撃者は影響を受けたシステム上で任意のコードを実行する権限を獲得する可能性があります。


VBAの悪意のある利用事例

VBAマクロは、その実行能力とOfficeの高い普及率から、サイバー攻撃において非常に汎用性の高いツールとして利用されています。

マルウェアの配信

最も一般的な利用法は、フィッシング攻撃と連携して、様々な種類のマルウェア(ランサムウェア、トロイの木馬、スパイウェア、バックドアなど)をターゲットシステムに配信することです。
ユーザーがマクロを有効にすると、VBAコードがバックグラウンドで悪意のあるペイロード(実行ファイル、DLL、追加のスクリプトなど)をインターネット上からダウンロードし、実行します。

サンドボックス・セキュリティ製品の回避

高度なマルウェアは、自身が解析・検出ツールやサンドボックス環境で実行されているかどうかを検出し、悪意のある動作を遅延させたり、完全に停止させたりすることで、検出を回避しようとします。
VBAは、システム情報の取得(プロセスの存在、レジストリ値、ファイルパスなど)、仮想環境を示すアーティファクトのチェック、ユーザー操作(マウスの動き、キー入力)の有無の確認などを行うことで、サンドボックス環境を特定し、解析を妨害するために利用されます。

ファイルレスマルウェア

VBAは、マルウェアのペイロードをディスク上にファイルとして保存することなく、直接システムメモリ上で実行するファイルレス攻撃にも利用されます。
これにより、従来のファイルベースのマルウェア検出手法を回避することが可能です。
VBAコードは、PowerShell、WMI、または直接メモリ操作を利用して、リモートサーバーからダウンロードしたシェルコードやスクリプトをメモリ内で実行します。

検出回避技術の悪用

攻撃者は、セキュリティ製品による検出をさらに困難にするために、VBAコードに難読化を施したり、「VBAストーミング」や「VBAパージング」 といった特定の検出回避技術を悪用したりします。
VBAストーミングは、VBAプロジェクトストリームの構造を操作するもので、VBAパージングはプロジェクトから特定のデバッグ情報を削除するものです。

過去および最近の著名な事例

VBAマクロウイルスの歴史は古く、1995年のConceptウイルスや、1999年に世界的な大流行を引き起こし、ビジネスに甚大な影響を与えたMelissaウイルスなどがあります。
近年では、LockyやGandCrab、PhobosといったランサムウェアがVBAマクロを拡散ベクトルとして頻繁に利用しました。
Emotet、Trickbot、Qakbot、Dridexなど、バンキング型トロイの木馬や情報窃盗型マルウェアも、悪意のあるVBAマクロを含むOfficeドキュメントを介して拡散されることが一般的でした(注:これらのマルウェアは最近では配布手法を変化させている場合もあります)。
特定の国の政府機関や重要インフラを標的とした高度な標的型攻撃(APT)においても、偵察や初期侵入、ラテラルムーブメントの段階でVBAが悪用される事例が報告されています。
例えば、2024年のウクライナを標的とした攻撃では、Excel VBAマクロを通じてCobalt Strikeという侵入テストツールが悪用され、遠隔操作やさらなる攻撃の足がかりとして利用されました。
これらの事例は、VBAが単なる自動化ツールではなく、サイバー攻撃において多様かつ効果的な武器として悪用され続けている現状を強く示しています。


安全なVBAコーディングのためのベストプラクティス

VBAを利用するアプリケーションやツールを開発する際には、潜在的なセキュリティリスクを最小限に抑えるために、以下のベストプラクティスを遵守することが不可欠です。

最小権限の原則に基づく認証と認可の実装

VBAアプリケーションがシステムリソース、ファイル、データベース、またはネットワークリソースにアクセスする場合、その操作を行うユーザーやコードが持つ権限は、その機能の実行に必要最小限であるべきです。
ユーザー認証を適切に行い、その認証されたユーザーに対して必要な認可(操作権限)のみを付与することで、不正な操作やデータ漏洩のリスクを低減できます。

堅牢な入力検証とサニタイズ

ユーザーインターフェース(フォーム、シート上の入力フィールドなど)や外部ファイル、ネットワークから取得するすべての入力データは、その使用前に厳格な検証とサニタイズ処理が必要です。
期待されるデータの型、形式、範囲、許容される文字などをチェックし、不正な入力(SQLインジェクション文字列、コマンドインジェクション文字列、スクリプトコードなど)を無害化または拒否することで、インジェクション攻撃を防ぎます。

適切なエラー処理と情報公開の制限

エラーハンドリングは単にプログラムの安定性を向上させるだけでなく、セキュリティ上も重要です。
エラーが発生した場合、デバッグ情報やシステム構成に関する詳細な情報がユーザーや潜在的な攻撃者に漏洩しないように注意が必要です。運用環境では、一般的なエラーメッセージのみを表示し、詳細なエラー情報はセキュアなログファイルに記録するなどの対策を講じます。

機密情報のハードコーディング回避

データベース接続文字列、パスワード、APIキー、暗号化キーなどの機密情報をVBAコードの内部に直接書き込む(ハードコーディングする)ことは、コードが漏洩した場合にこれらの情報が容易に露呈するため、絶対に避けるべきです。
これらの情報は、Windows Credential Manager、暗号化された設定ファイル、環境変数など、より安全な方法で管理し、実行時に読み込むようにします。

危険な関数の使用の最小化と厳格な制御

Shell, CallByName, 特定のAPI呼び出しなど、OSや他のプロセスに影響を与える可能性のある危険な関数の使用は、必要最小限にとどめ、使用する際には実行内容を厳格に制御・検証します。
やむを得ず使用する場合は、入力値の検証を徹底し、固定的な安全なコマンドのみを実行するように制限します。

VBAプロジェクトのパスワード保護の理解と限界

VBAプロジェクトにパスワードを設定することで、第三者によるコードの閲覧や変更をある程度防ぐことは可能です。
しかし、このパスワード保護は技術的なツールによって比較的容易に解除されることが知られており、セキュリティの主要な対策として依存すべきではありません。
これはあくまで一時的な、または付加的な保護手段と考えるべきです。

デジタル署名の活用と信頼できる発行元の管理

開発したVBAプロジェクトには、信頼できるコード署名証明書を使用してデジタル署名を行います。
これにより、コードの作成者と、コードが署名後に改ざんされていないことを証明できます。
組織内では、信頼できる発行元を明確に定義し、その発行元によって署名されたマクロのみを許可するポリシーを適用します。

定期的なコードレビューとセキュリティ監査

開発プロセスにセキュリティ専門家や他の開発者によるコードレビューを組み込み、潜在的な脆弱性や悪意のあるコード、不適切な実装がないかを確認します。
また、定期的にセキュリティ監査や脆弱性スキャンツールを利用して、既知の脆弱性や設定ミスがないかチェックします。

依存関係の適切な管理

VBAプロジェクトが外部ライブラリやActiveXコントロールに依存する場合、それらが信頼できるソースから提供されており、脆弱性が修正された最新の状態に保たれていることを確認します。
不要な参照は削除し、リスクを低減します。

コードの難読化に対する過信の回避

コードの難読化は、攻撃者によるコード解析を困難にする効果はありますが、セキュリティの根本的な対策にはなりません。
熟練した攻撃者は難読化を解除することができます。
難読化は他のセキュリティ対策と組み合わせて使用されるべきであり、単独でセキュリティを保証するものではありません。

バージョン管理とバックアップ

VBAプロジェクトのコードはバージョン管理システムで管理し、定期的なバックアップを取得します。
これにより、問題発生時の復旧や変更履歴の追跡、不正な変更の検出などが容易になります。


Microsoft OfficeにおけるVBAのセキュリティ機能とその限界

Microsoft Officeアプリケーションには、VBAマクロの実行を管理し、セキュリティリスクを軽減するためのいくつかの組み込み機能があります。

マクロの設定(トラストセンター)

これはVBAセキュリティの中心的な機能であり、ユーザーまたは管理者がマクロの実行ポリシーを制御できます。
設定オプションには以下のようなものがあります。

警告を表示せずにすべてのマクロを無効にする:
最も安全な設定ですが、正当なマクロも実行できなくなります。
警告を表示してマクロを無効にする:
Officeドキュメントを開いた際に警告バーが表示され、ユーザーが明示的に「コンテンツの有効化」を選択した場合のみマクロが実行されます。
多くのユーザーは警告の意味を理解せずに有効化してしまうリスクがあります。
デジタル署名されたマクロを除き、警告を表示してマクロを無効にする
信頼できる発行元によってデジタル署名されたマクロは警告なしに実行され、それ以外のマクロは警告が表示されます。
推奨される設定の一つです。
すべてのマクロを有効にする(非推奨、危険な可能性のあるコードが実行される場合があります)
セキュリティリスクが非常に高いため、通常は選択すべきではありません。
これらの設定は、グループポリシー(GPO)を使用して組織全体で一元的に管理および強制することが推奨されます。

デジタル署名と信頼できる発行元

VBAプロジェクトにデジタル署名を施すことで、コードの作成者を確認し、コードが署名後に変更されていないことを保証できます。
組織は、正規のVBA開発者や外部パートナーを「信頼できる発行元」として登録し、その発行元からの署名付きマクロのみを許可するポリシーを適用することで、不正なマクロの実行リスクを低減できます。ただし、証明書が侵害された場合や、ユーザーが信頼できる発行元を誤って登録した場合は、この仕組みも破られる可能性があります。

保護ビュー

インターネットからダウンロードされたファイルや、Outlookの添付ファイルなど、信頼できない可能性のあるソースから取得したOfficeドキュメントを開く際に、保護ビューで表示されます。
保護ビューでは、マクロを含む多くの編集・実行機能が制限されており、ユーザーが「編集を有効にする」をクリックしない限り、悪意のあるコードが自動的に実行されるのを防ぎます。これは、潜在的に危険なコンテンツを安全に検査するための重要な第一ステップです。

信頼できる場所

管理者は、特定のフォルダを「信頼できる場所」として設定できます。
信頼できる場所に保存されたOfficeドキュメントに含まれるマクロは、セキュリティ警告が表示されることなく実行されます。これは正当な業務システムの運用には便利ですが、もし攻撃者が信頼できる場所に悪意のあるファイルを配置することに成功した場合、防御メカニズムを迂回されてしまうという重大なリスクを伴います。信頼できる場所の設定は、必要最小限のフォルダに限り、厳格に管理されるべきです。

VBAプロジェクトのパスワード保護

前述の通り、コードの覗き見や単純な改変を防ぐ効果はありますが、専用ツールで容易に解除されるため、セキュリティ対策としての効果は限定的です。


これらのセキュリティ機能の限界

ソーシャルエンジニアリングへの脆弱性
最も高度な技術的対策も、ユーザーが警告の意味を理解せずに、または攻撃者の誘導によって「コンテンツの有効化」を自らクリックしてしまうソーシャルエンジニアリング攻撃には対抗できません。
ユーザー教育が不可欠です。
信頼できる場所の悪用
信頼できる場所に悪意のあるファイルが置かれた場合、セキュリティ機能は無効化されます。
検出回避技術の進化
VBAストーミングやVBAパージングのような技術は、Officeの構造やVBAエンジンの特性を悪用し、多くのセキュリティツールによる検出を回避しようとします。
機能の複雑性
トラストセンターの設定オプションは多岐にわたり、エンドユーザーが適切に設定・理解するのは困難な場合があります。組織的な管理が重要です。
Microsoft Office自体の脆弱性
OfficeアプリケーションやVBAエンジン自体に存在するゼロデイ脆弱性が悪用された場合、マクロ設定に関わらず攻撃が成功する可能性があります。
Office製品の継続的なアップデートとパッチ適用が重要です。


VBAに関連するセキュリティ侵害の過去の事例

VBAを悪用したセキュリティ侵害は、サイバー攻撃の歴史において繰り返されてきた脅威であり、その手口は常に進化しています。

初期のマクロウイルス

Concept (1995): 最初のマクロウイルスとされ、Word文書を介して感染しました。
ペイロードはありませんでしたが、マクロウイルスの可能性を示しました。

Melissa (1999): 世界的に大流行したマクロウイルスで、感染したWord文書を開くと、ユーザーのOutlookアドレス帳の上位50件の連絡先に自身をメール添付して送信しました。
急速な拡散により、多くの企業のメールサーバーに過負荷をもたらし、業務停止などの被害を出しました。

ランサムウェア攻撃

近年、ランサムウェアの主要な感染経路の一つとしてVBAマクロが多用されました。

Locky (2016頃): 悪意のあるVBAマクロを含む添付ファイルをフィッシングメールで送りつけ、ユーザーがマクロを有効にするとランサムウェア本体をダウンロード・実行し、ファイルを暗号化しました。

GandCrab, Phobos, Maze (2018年以降): これらのランサムウェアファミリーも、初期侵入ベクトルとしてVBAマクロを積極的に利用しました。

バンキング型トロイの木馬とダウンローダー

Emotet, Trickbot, Qakbot, Dridex: これらの悪名高いマルウェア群は、当初バンキング型トロイの木馬として知られましたが、後に多機能なモジュール式マルウェアプラットフォームへと進化しました。これらの多くが、悪意のあるVBAマクロを含む添付ファイル(請求書、注文書、給与明細などを装う)を介して拡散されました。
マクロが実行されると、本体のマルウェアがダウンロードされ、情報窃盗、スパム送信、他のマルウェアの配布などを行います。

検出回避技術の悪用

前述のVBAストーミングやVBAパージングといった技術は、実際に攻撃キャンペーンで確認されており、セキュリティ製品による検出を回避する目的で使用されています。

標的型攻撃(APT)での利用

特定の国家や組織を背景に持つ攻撃グループ(APTアクター)も、標的への初期侵入や、感染後の活動(偵察、バックドア設置、ラテラルムーブメント)のためにVBAマクロを悪用しています。
Officeドキュメントは、標的が日常的に利用するため、攻撃者が疑われにくい侵入経路となり得ます。
2024年のウクライナ関連の事例でCobalt StrikeがVBA経由で配布されたことは、この傾向を示しています。

これらの事例は、VBAマクロが過去から現在に至るまで、様々な種類のサイバー攻撃において効果的かつ一般的な手法として利用され続けていることを証明しています。
攻撃者は常に新しい手口や検出回避技術を開発しており、VBA関連の脅威は依然として活動的です。


VBAのセキュリティリスクと他のスクリプト言語の比較

VBAのセキュリティリスクを他のスクリプト言語と比較検討することは、それぞれの言語が持つ特性と、それらがどのような環境で実行されるかがセキュリティにどのように影響するかを理解する上で有益です。

JavaScript:

主にWebブラウザ上で動作し、Webアプリケーションのインタラクティブ性を実現します。
Node.jsのようなランタイム環境の登場により、サーバーサイドでの利用も広がっています。

Microsoft Officeのコンテキストでは、VBAの後継となるスクリプト言語としてOffice Scriptsが導入されています。
Office ScriptsはJavaScriptをベースとしており、より厳格なサンドボックス環境で実行されるように設計されています。
VBA
OSレベルへの直接的なアクセス(ファイルシステム操作、外部プロセス実行)や、広範なネットワークアクセスが可能です。
これは強力ですが、悪意のあるコードがシステム全体に影響を与えるリスクが高いことを意味します。
Office Scripts
:実行がワークブック内(データとUI)に限定され、ファイルシステムやOSへの直接アクセスはできません。
ネットワークアクセスも、許可された特定のWebサービス呼び出しに制限されます。
この設計により、悪意のあるコードがシステムに与える損害を大幅に低減できます。

ただし、JavaScript自体もWebアプリケーションの文脈ではクロスサイトスクリプティング(XSS)などの脆弱性の原因となる可能性があり、そのセキュリティは実行される環境(ブラウザのセキュリティ設定、サーバー側の実装など)に大きく依存します。

Python

汎用性の高いスクリプト言語で、データ分析、AI/機械学習、Web開発、自動化など幅広い分野で利用されています。
Microsoftは、ExcelにPython in Excel機能を統合しました。
これにより、Excelのセル内で直接Pythonコードを実行できるようになりました。
Python in Excelの実行環境: この機能で実行されるPythonコードは、ユーザーのローカルデバイスではなく、Microsoft Cloud上の分離された安全なコンテナ環境で実行されます。
ローカルのファイルシステムやネットワークへのアクセスは制限されており、Pythonコードがローカルシステムに直接的な悪影響を与えるリスクはVBAと比較して大幅に低減されています。
Python自体にも、依存ライブラリの脆弱性や、不適切なコードによるセキュリティリスクは存在しますが、Excel内での実行環境が安全に設計されている点がVBAとの大きな違いです。

他のスクリプト言語(例: PHP, Ruby, PowerShellなど)

これらの言語もそれぞれ固有のセキュリティリスクを抱えています。
Webサーバー上で動作するPHPなどは、入力検証の不備によるインジェクション攻撃や、ファイル操作に関する脆弱性が問題となることがあります。
PowerShellは、OSの強力な機能を操作できるため、悪意のあるスクリプトがシステム管理権限を悪用するリスクがあります。
VBAのセキュリティリスクは、その「Microsoft Officeアプリケーションに深く統合され、OSレベルの操作がある程度可能」という特定の実行環境に起因する部分が大きいと言えます。
他の言語もリスクはありますが、そのリスクの種類や影響範囲は、言語の設計、実行環境、そして主な用途によって異なります。
Office環境における自動化という文脈では、Office ScriptsやPython in Excelのような、よりセキュアな実行環境を持つ新しい選択肢が登場していることが重要です。


VBAコードのセキュリティ脆弱性を分析するためのツールと技術

VBAコードに潜むセキュリティ脆弱性や悪意のある挙動を特定するためには、様々なツールと分析技術が利用されます。

静的コード解析 (Static Analysis)

VBAコードを実行せずに、そのコード構造、構文、関数呼び出し、パターンなどを分析し、既知の脆弱性パターンや疑わしいコード構造を検出します。

OLEVBA: OfficeドキュメントからVBAマクロコードを抽出し、難読化解除や、疑わしいキーワード(Shell, CreateProcess, DownloadFileなど)の検出を行うオープンソースツールです。
マクロの挙動の概要を素早く把握するのに役立ちます。

StaticReviewer, Rubberduck: これらの商用または高度なツールは、より詳細な静的解析やコード品質チェック機能を提供し、潜在的なセキュリティ上の問題を警告します。

YARAルール: マルウェア解析において広く使用されるパターンマッチングツールです。悪意のあるVBAコードに特有の文字列、バイトパターン、構造などを記述したYARAルールを作成・適用することで、特定のマルウェアファミリーに関連するVBAコードや、一般的な悪意のあるパターンを効率的に検出できます。

動的解析 (Dynamic Analysis)

VBAコードを制御された安全な環境(サンドボックスなど)で実際に実行し、その実行中の挙動(ファイル作成、レジストリ変更、ネットワーク通信、プロセス起動など)を監視・記録することで、悪意のある活動を特定します。

サンドボックス環境: ANY.RUN, Hybrid Analysis, VMRayなどのオンラインサンドボックスや、Cuckoo Sandboxのようなオープンソースツールが利用されます。
これらの環境は、分析対象のコードがホストシステムに損害を与えることなく、安全に実行できるように設計されています。

ViperMonkey: VBAマクロのエミュレーションに特化したツールで、VBAコードを実際に実行することなく、その論理を追跡し、最終的に実行される可能性のあるコード(例:難読化された文字列を復号した結果)を抽出することができます。これにより、サンドボックス回避を行うマクロの解析に有効です。

手動によるコードレビュー

経験豊富なセキュリティ専門家やVBA開発者が、コードを目視で確認し、自動化ツールでは検出困難な論理的な欠陥、意図的なバックドア、高度に難読化されたコードの挙動、および特定の業務ロジックに隠されたセキュリティリスクなどを特定します。
これは時間がかかりますが、最も深いレベルでの脆弱性発見につながる可能性があります。

難読化解除 (Deobfuscation)

攻撃者はコード解析を妨害するために難読化を施すことが多いため、難読化されたVBAコードを分析可能な状態に戻す技術やツールが重要になります。
olevbaのようなツールには基本的な難読化解除機能があり、より高度な難読化に対しては手動による解析やカスタムスクリプトが必要になる場合があります。

これらのツールと技術を組み合わせることで、VBAコードに含まれる潜在的なセキュリティリスクを多角的に評価し、適切な対策を講じることが可能になります。


Microsoft Officeアプリケーション内でのVBAの使用状況と関連するセキュリティリスク

VBAは、Word、Excel、PowerPoint、Accessなど、様々なMicrosoft Officeアプリケーションに統合されており、それぞれのアプリケーションの特性に応じたリスクが存在します。

Microsoft Word (.doc, .docx, .docm)

主に文書作成に使用されますが、VBAマクロを埋め込むことで、文書の内容に基づいて特定の操作を実行したり、外部と連携したりすることが可能です。
関連リスク: フィッシング攻撃の主要なベクトルの一つです。
ユーザーが添付された悪意のあるWord文書を開き、マクロを有効にすると、ランサムウェアやトロイの木馬などのマルウェアがダウンロード・実行されるリスクがあります。
文書を開いた際に自動実行されるマクロ(AutoOpen, Document_Openなど)が悪用されやすいです。

Microsoft Excel (.xls, .xlsx, .xlsm)

データ分析、計算、グラフ作成、リスト管理などに広く利用されます。
VBAは、複雑な計算処理の自動化、外部データソースとの連携、カスタム関数の作成などに使用されます。
関連リスク: 情報窃取、不正なデータ操作、外部からのコード実行、そして数式インジェクションのリスクがあります。
悪意のあるマクロは、シート上の機密データを読み取って外部に送信したり、セルに埋め込まれた不正な数式や関数と連携して予期しない挙動を引き起こしたりする可能性があります。
ワークブックを開いた際や特定のイベント(セル選択、値変更など)で実行されるマクロが悪用されやすいです。

Microsoft PowerPoint (.ppt, .pptx, .pptm)

プレゼンテーション作成に使用されます。
VBAマクロは、スライドショーの制御、外部データとの連携、インタラクティブなプレゼンテーション作成などに利用されます。
関連リスク: プレゼンテーションファイルを開いたり、スライドショーを実行したりした際に、埋め込まれた悪意のあるマクロがバックグラウンドで実行され、システムへの感染や情報窃盗を試みるリスクがあります。

Microsoft Access (.mdb, .accdb)

リレーショナルデータベースの構築と管理に使用されます。VBAは、フォームやレポートの制御、クエリの実行、データ操作、外部システムとの連携など、Accessアプリケーションの中核的な機能を実現するために不可欠です。
関連リスク: Access VBAは、他のOfficeアプリケーションと比較して、ファイルシステムへの直接的なアクセスやOSコマンドの実行など、より強力なシステム操作が可能です。
このため、悪意のあるVBAコードがデータベースだけでなく、基盤となるシステム全体に深刻な影響を与えるリスクがあります。
認証情報の管理不備や、信頼できないソースからのAccessファイル実行は特に危険です。

これらのアプリケーションにおけるVBAの利用状況を理解することは、それぞれの環境に特有のセキュリティ対策を講じる上で重要です。例えば、Excelのマクロはデータ操作に関連するリスクが高く、Accessのマクロはシステムレベルの操作に関連するリスクが高いといった違いを考慮する必要があります。


結論と提言

本レポートで詳細に分析したように、Visual Basic for Applications (VBA) は、Microsoft Officeアプリケーションの自動化と機能拡張に不可欠なツールであると同時に、その強力な機能ゆえにサイバー攻撃者にとって魅力的な悪用対象であり続けています。VBAに関連するセキュリティリスクは根強く存在し、その脅威の手法も進化を続けています。

これらのVBAに関連するセキュリティリスクを効果的に軽減するためには、技術的対策、組織的対策、そしてユーザー教育を組み合わせた多層的なアプローチが不可欠です。

推奨される対策

  1. 厳格なマクロ実行ポリシーの適用
    組織全体で、グループポリシー(GPO)などを活用し、Microsoft Officeのマクロ設定をデフォルトで無効化し、信頼できる発行元によってデジタル署名されたマクロのみを許可する設定を強制します。
    これにより、未知の悪意のあるマクロの実行リスクを大幅に低減できます。
    「信頼できる場所」は必要最小限に絞り込み、その管理を厳格に行います。

  2. エンドユーザーへの継続的なセキュリティ教育
    ユーザーがマクロを含むOfficeドキュメントの危険性を理解し、不審なファイルやメール添付ファイルを開かない、そしてセキュリティ警告が表示された際に安易に「コンテンツの有効化」をクリックしないよう、定期的な訓練と啓発活動を実施します。
    ソーシャルエンジニアリングの手口について具体的に教育することが重要です。

  3. IT部門による監視と技術的対策
    エンドポイント検出と対応(EDR)ソリューションや、最新のアンチウイルス/マルウェア対策ソフトを導入し、VBAマクロを含むOfficeドキュメントのスキャンを強化します。
    アプリケーション制御(Application Control)ポリシーを導入し、VBAスクリプトからの特定の危険な実行ファイル(例: powershell.exe, cmd.exe)の起動を制限することも有効な手段となり得ます。
    Microsoft Office製品およびWindowsオペレーティングシステムは、既知の脆弱性を悪用した攻撃を防ぐために、常に最新の状態にパッチが適用されていることを確認します。

  4. VBA開発者へのセキュリティ教育と安全なコーディング実践
    VBA開発者は、本レポートで述べた安全なコーディングのベストプラクティス(入力検証、認証・認可、機密情報の管理、危険な関数の慎重な使用など)について十分な教育を受け、これを実践します。
    開発したVBAプロジェクトに対して、定期的なコードレビューとセキュリティ脆弱性分析を実施し、潜在的な問題を早期に発見し修正します。

  5. 代替自動化ソリューションの検討
    新たな自動化要件や、既存のVBAソリューションのリプレースを検討する際には、Office ScriptsやPython in Excelのような、よりモダンでセキュリティが考慮された代替技術の利用を積極的に検討します。
    これらの技術は、より安全な実行環境を提供し、将来的なセキュリティリスクを低減する可能性があります。
    ただし、移行にはコストと労力が伴うため、費用対効果を考慮した判断が必要です。

  6. 脅威インテリジェンスの継続的な監視
    VBAを悪用した新しい攻撃手法や、関連する脆弱性に関する情報を継続的に収集・分析し、それに応じてセキュリティ対策を適応させていく必要があります。
    セキュリティコミュニティや信頼できる脅威インテリジェンスプロバイダーからの情報を活用します。

VBAは依然として多くの組織にとって有用なツールですが、その利用に伴うセキュリティリスクを無視することはできません。
これらのリスクを適切に理解し、本レポートで提言したような包括的な対策を講じることで、組織はVBAを安全に活用し、サイバー攻撃からの被害を最小限に抑えることができるでしょう。





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