VBA技術解説
スピルでVBAの何が変わったか

ExcelマクロVBAの問題点と解決策、VBAの技術的解説
公開日:2020-02-03 最終更新日:2021-08-27

スピルでVBAの何が変わったか


Office365にスピルが登場し、2020年1月にはXLOOKUPもリリリースされ、ますますエクセルが便利になってきています。
スピルは、これまでにないくらい大幅な機能変更と言えるでしょう。
スピルの一般的な説明については以下を参照してください。

スピルについて
・スピルとは ・スピルの数式例 ・ゴースト ・スピル範囲での独特な挙動について ・スピルのエラー表示 ・スピル範囲演算子 ・暗黙的なインターセクション演算子 ・従来のスピルしないエクセルとの互換性についての注意点 ・スピル関連記事


スピルの登場によってVBAがどのように変わったのか、スピルを利用して何ができるのか、これらについて考えてみたいと思います。



Rangeオブジェクトに追加されたプロパティ

セルに数式が設定されているかどうかは、HasFormulaプロパティで判定します。
セルの数式が配列数式かどうかは、HasArrayプロパティで判定します。
以下は、スピルを判定するために追加されたプロパティです。

HasSpill

範囲内のいずれかのセルがスピル範囲に含まれる場合は、Trueが返されます。
そうでない場合(全てのセルがスピル範囲外の場合)は、Falseが返されます。

単一セルのRangeオブジェクトで使用するようにしてください。
複数セルのRangeオブジェクトでは、中のセルの一つでもひとつでもスピル範囲に含まれている場合はTrueとなってしまいます。

Areasが複数存在するRangeオブジェクトの場合はエラーとなります。

SpillingToRange

セルの数式がスピルする場合は、スピル範囲を返します。
そうでない場合は、エラーが返されます。

つまり、スピルする数式を入れたセルでのみTrueが返ります。
スピルによってこぼれた先のセルではFalseとなります。

SpillParent

セルがスピルのメンバーである場合は、スピルする数式を入れたセルを返します。
そうでない場合は、エラーが返されます。

Formula2

Formula2
Formula2Local
Formula2R1C1
Formula2R1C1Local
以上の4つがあります。
Formulaとの違いは、スピルするかどうかの違いです。
Formulaはスピルしません、「共通部分の参照」となります。
これに対して、Formula2はスピルします。

あるセルがスピル範囲に含まれる場合に、スビル範囲を返す関数Function

Function getSpillArea(ByVal argRange As Range) As Range
  If Not argRange.HasSpill Then Exit Function
  Set getSpillArea = argRange.SpillParent.SpillingToRange
End Function

'使用例
Sub sample()
  Dim rng As Range
  Dim spillArea As Range
  For Each rng In ActiveSheet.UsedRange
    Set spillArea = getSpillArea(rng)
    If spillArea Is Nothing Then
      Debug.Print rng.Address & ":" & "スピル範囲外"
    Else
      Debug.Print rng.Address & ":" & spillArea.Address
    End If
  Next
End Sub

SpillingToRangeがスピル数式をいれたセルしか取得できないので、
SpillParentでスピル数式を入れたセルを取得してからSpillingToRangeで範囲を取得しています。


セルに数式を設定する場合

VBAで配列を返すような数式をセルに設定することはあまり無いとは思いますが、意図せずそうなってしまう事はあるかもしれません。
複数の結果を返す数式でも、使用するプロパティによってスピルする場合とスピルしない場合があります。
以下では、見比べやすいように全て"B1"に設定する場合のVBAになります。

スピルする数式の入れ方

Formula2を使う事でスピルします。
Range("B1").Formula2 = "=A1:A3"
Range("B1").Formula2Local = "=A1:A3"
Range("B1").Formula2R1C1 = "=RC[-1]:R[2]C[-1]"
Range("B1").Formula2R1C1Local = "=RC[-1]:R[2]C[-1]"

スピルしない数式の入れ方

Formulaはスピルしません。
Range("B1").Value = "=A1:A3"
Range("B1").Value2 = "=A1:A3"
Range("B1").Formula = "=A1:A3"
Range("B1").FormulaLocal = "=A1:A3"
Range("B1").FormulaR1C1 = "=RC[-1]:R[2]C[-1]"
Range("B1").FormulaR1C1Local = "=RC[-1]:R[2]C[-1]"
Range("B1").FormulaArray = "=A1:A3"

当然ではありますが、暗黙的なインターセクション演算子@を付ければスピルしません。
Range("B1").Formula2 = "=@A1:A3"
このページでは、当初Value,Value2でもスピルするように書いていました。
その後スピルしないことが確認できて修正しています。
(@インターセクションが自動付与されます)
当初の勘違いなのか仕様変更なのか、記憶があいまいになっており定かではありません。

VBAで設定した後には必ず実際のセルを確認するはずですので、スピルしていればその時点で気が付くとは思います。
万一にもスピルさせたくない場合は、Formulaプロパティを使うと良いでしょう。


1次元配列を返すユーザー定義関数

1次元配列を返す関数Functionをシートでユーザー定義関数として使用すればスピルします。

Function USERSPILL1() As Variant
  Dim ary As Variant
  ReDim ary(1 To 3)
  Dim i As Long
  For i = 1 To 3
    ary(i) = i
  Next
  USERSPILL1 = ary
End Function

配列のデータ型は特に問いません。
Dim ary() As String
このように宣言しても構いません。
もちろん、本来は引数を指定していろいろな機能を実現します。

VBA マクロ スピル spill

※旧(スピルしない)エクセルでは、配列数式{=USERSPILL1()}となります。

VBA マクロ スピル spill


2次元配列を返すユーザー定義関数

2次元配列を返す関数Functionをシートでユーザー定義関数として使用すればスピルします。

Function USERSPILL2() As Variant
  Dim ary As Variant
  ReDim ary(1 To 3, 1 To 3)
  Dim i As Long, j As Long
  For i = 1 To 3
    For j = 1 To 3
      ary(i, j) = i * j
    Next
  Next
  USERSPILL2 = ary
End Function

配列のデータ型は特に問いません。
Dim ary() As String
このように宣言しても構いません。
もちろん、本来は引数を指定していろいろな機能を実現します。

VBA マクロ スピル spill

※旧(スピルしない)エクセルでは、配列数式{=USERSPILL2()}となります。


JAG配列を返すユーザー定義関数

JAG配列(配列の中に配列)でも、要素数が一定であればスピルします。

Function USERSPILL3() As Variant
  Dim ary As Variant
  Dim ary2 As Variant
  ReDim ary(1 To 3)
  Dim i As Long, j As Long
  For i = 1 To 3
    ReDim ary2(1 To 3)
    For j = 1 To 3
      ary2(j) = i * j
    Next
    ary(i) = ary2
  Next
  USERSPILL3 = ary
End Function

配列の要素数が不定数となる本来のギザギザJAG配列では#VALUEとなります。

VBA マクロ スピル spill

※旧(スピルしない)エクセルでは、配列数式{=USERSPILL3()}となります。


スピルのVBAでの活用について

スピルは、永続版のExcelでサポートされるのは次期バージョンからになりそうです。
Excel2019ではサポートされることは無さそうです。
したがって、実務で気にせずに使えるようになるのはまだまだ先でしょう。

とはいえ、Office365も大分普及しているようですので、Excelファイルを共有する範囲内のPCが全てOffice365になっているのであればスピルや新関数を使う事に問題はありません。

使い方を工夫すれば、強力な武器になると思います。




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